人生を変える英会話

たとえば、そのオケージョン(時と場合)に合った服装の選び方とかテーブル上の国旗の立て方といったこまごまとしたことを含めて、国際Pが会社にやってくるV I舞台におけるエチケ。 トやマナー全般のことだ。
日本語でいえばさしずめ「冠婚葬祭のイロハ」といったところだろう。 王室に対する敬愛の念が強いタイのような国の場合は、なおさら注意が必要だ。
お迎えした王族に失礼があっては、両国の関係を損ねることにもなりかねない。 「イスはこれでいいのかなあ…」ガラヤニ王女歓迎準備チームの会合の席上、誰かがふとこう言った。
そう言えば、しばらく前にタイの日系企業が主催した屋外イベントで皇太子にすすめられた席にあったのがごく普通の折りたたみ式のイスであったために、タイのマスコミから「王室に対して無礼千万」とたたかれたことがあったのだ。 展示室「メディアワールド」の応接会議室にあったイスは、普通の職場にある事務用のイスよりははるかに立派なものではあったが、やはり気になる。
結局、会社の近くのホテルから貴賓席用の豪華なイスを借りてくることにした。 このほかにも、外務省の担当官からいろいろなアドバイスをもらったが、その中にこういうのがあった。
「贈り物を差し上げるときには、それをお盆の上に載せ、ひざまずいて前に進みます。 もっとも外国ではそこまで気にされないでしょうから、これはやらなくてもいいですよ」う〜ん、いろいろあるんだなあ。

これには一同、思わず唸ってしまった。 打ち合わせでは「そこまでしなくてもいい」ということではあったが、これも結局、贈り物を差し上げる担当になったメディアワールドの説明員の女性が、笑顔でその動作をやってくれた。
さて今回の来訪では、タイ側、ソニー側からそれぞれ5人ずつ出席することになっていた。 こういう賓客接待の場では普通、事務方があらかじめ出席者のリストを相互に送っておくこともあって、その場では名刺交換などしない。
ビジネス経験がある方ならおわかりだろうが、5人が5人を相手に、互いに列を作ってぞろぞろと名刺交換をするようなシーンは、このような社交の席では、想像するだけでも似つかわしくない。 とはいえ、初対面の相手が5人もいると誰が誰だがわかりにくいので、このときはソニー側の出席者だけ、背広の胸ポケットに名札をつけてもらうことにした。
着席式の会議なら、卓上に置く名札でもよかっただろう。 ところが直前になって気がついたのだが、この名札を作る係を決めておくのを忘れていた。
手書きのようなもので間に合わせようかと思ったが、それではいかにも見栄えがしない。 仕方がないので、私は古巣の広告課に行って、イベントなどで使うソニーのロゴ入りカードとプラスチック製の名札ケースを何個かもらい、それにワープロで印字した紙を切り貼りして、どうにか自分で作った。
応接室と昼食会の座席表は、VIP応接担当のM課長が用意してくれた。 こういう場に慣れ九重役なら、人から言われずともどのあたりに座ればよいかわかっているかもしれない。
しかし、万スその場になってもたつくとみっともないので、あらかじめテーブルプランを作り、出席する重役陣全員に渡しておいた。 社交の席では普通、席次の高い人を中央にして、ホスト側、来賓側の出席者を交互に配置していく。
ただし、英語ができる人とできない人が同席する場合は、英語の堪能な人を合間にうまく配置して、その人に通訳してもらえるようにしておくのがコツ。 それから、出席者の人数があらかじめわかっている場合でも、必ず数脚は予備のイスを部屋の隅に置いておく。

来訪側の随員などが予定外に増えた場合、座れない人が出ないようにするための用心である。 なお外交儀礼のポイントを素人でもわかるように簡潔にまとめた名著に『国際ビジネスのためのプロトコール』(寺西千代子著、有斐閣)がある。
この本には大いに助けられた。 かつての私と同じような立場におかれている方には、ぜひお勧めしたい1冊である。
Iさん流のおもてなし。 さて、王女が来訪される直前になって、Iさんから秘書のKさんにこういう指示があった。
「Sメソードの子どもたちに、バイオリンの演奏をしてもらおうか」Sメソードとは、S鎮一氏(故人)が始めたバイオリンなどの早期教育法で、その教育組織「才能教育研究会」は日本だけでなく、全世界に広かつている。 Iさんは以前からこの教育法を高く評価していて、幼児教育に関する著作でもよく引き合い払出していた。
幼児教育に関心を持って来られるお客様にただ話をするだけではなく、生きた実例を見せようなどと思いつくあたりは、さすがである。 王女がソニー本社に来訪された当日は、周到な準備のかいあって、すべて滞りなく進行した。
昼食を取りながらIさんが幼児教育に関する持論をひと通り説明したあと、百聞は一見に如かずとばかり、Sメソードでバイオリンを習っている5人くらいの幼児を招き入れて、何曲が演奏してもらった。 わずか3歳くらいの小さな子どもたちによるこの巧みなバイオリンの演奏には、王女もいたく感激されたご様子であった。
さて私の通訳だが、今回は事前に何度も「予習」を重ねたかいもあって、どうにかつかえずにできた。 特に、昼食会の席上でのスピーチは、ほぼ予想通りの内容だった。

このような席での慣例に従ってデザートの終わるころおもむろに立ち上がったIさんのスピーチは、フォーマルで端的なものであった。 当然のことだが、乾杯のためのスピーチは長くなってはいけない。
このときIさんが申し上げたのは、来日中のお忙しい日程を縫ってソニーにご来訪いただいたことに対する感謝の念、昼食の席では持論の教育論ばかり聞かせてしまい恐縮極まりないということ、そして最後に、王女様がこれから日本での旅行を楽しまれることをお祈り申し上げます、ということくらいだった。 そのスピーチの最後のところで、貴国の将来に弊社が一層貢献できることを願いながら、王女殿下のご健康、貴国の将来と繁栄に乾杯を申し上げます…という乾杯の辞を滞りなく通訳し終えたときは、あたかも体操の選手がうまく着地して両手をぱっとあげたかのように、「決まったぜ(ボクでもたまにはうまくいくもんだ)!」と内心、うれしく感じていた。
このように、誰かのために捧げる「乾杯」はtoastという。 王族などに対してはそれぞれに対する敬称を使って乾杯を申し上げるようだが、ごくざっくばらんなパーティーで使う表現なら、Cheers!(乾杯I・)とかHerestoyou!(あなたのために)でよい。
なお、このようにフォーマルな席では、乾杯を捧げられる主賓は座ったまま乾杯を受けるのが普通である。 日本では乾杯は立ち上かつてするが、晩餐会などでは全員が着席したまま行う形式の乾杯もあるから注意がいる。
Iさんの乾杯の辞のあとに、王女殿下が「本日は心温まる歓迎をしていただいて感謝に堪えない」という答礼のスピーチをされた。 あとで誰かから聞いたところでは、王族のような高貴な方がこういう場にいらした場合、必ず答礼の辞を賜るわけでもないらしい。

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